ユーロに投資マネーが流れ込んでいる。2月以降、ドルからの資金移動が始まり、3月には円からの資金流入も強まった。利上げ路線の日銀、いったん利下げを止めた米連邦準備理事会(FRB)に対し、欧州中央銀行(ECB)は3月も利下げを続けており、金利差要因はユーロ売り材料のように映る。ユーロの意外な上昇は、市場の円高シナリオにも修正を迫っている。
「1ユーロ=1ドルのパリティ(等価)はすっかり遠のいた」。マーケット・リスク・アドバイザリーの深谷幸司氏はこう漏らす。市場では昨年まで主要通貨間でのユーロ独り負けを予想する声が優勢だった。日本や利下げペースの減速が見込まれた米国の金融政策との方向性の違い、中国経済の停滞に伴う輸出悪化、さらにはロシアのウクライナ侵略による景気不安といった悪材料が山積していたからだ。

こうした状況が一転したのは「底堅く推移すると楽観視されていた米国経済の先行き不安が急速に強まってきた」(深谷氏)ことだ。トランプ政権による追加関税が矢継ぎ早に実施されるなかで、米国内でも物価高に伴う消費悪化懸念が浮上。市場ではFRBが米景気を下支えするため、いったん停止していた利下げを再開するとの見方が広がりつつある。
一方、ユーロにはトランプ政権の強硬な政策姿勢が思わぬ追い風になった。ウクライナ支援で欧州独自の防衛力強化を迫られたうえ、米国の関税強化に対抗するため、財政拡張路線にかじを切らざるを得なくなっているからだ。みずほ銀行の唐鎌大輔氏は「ユーロ圏の銀行貸し出しは復調しており、ECBによる先行きの利下げ回数も減っていく可能性がある」と指摘する。
市場がFRBの先行きの利下げ再開、ECBの利下げ回数減少を織り込めば、金利差要因もユーロ買い材料へと転じる。QUICKが為替市場関係者を対象に実施した3月の外為月次調査によると、米国が景気停滞と物価上昇が併存するスタグフレーションに陥るような状況になれば、ドル安要因になるとの回答が60%を占めた。これに対し、ユーロに対する悲観的な見方は大きく後退し、年内のユーロ相場は「緩やかに上昇する」との見方が33%で「横ばいで推移する」とともに最も多くなった。
ユーロに対する見方の変化は、円にも少なからぬ影響を及ぼす。年初以降のユーロの対円相場を見ると、2月までは円買い・ユーロ売りが優勢だったが、3月以降は一転して明確な円売り・ユーロ買い基調に変わったことが分かる。主要通貨を巡る基本的な構図は、利下げ路線の米欧から、利上げ路線の日本に投資マネーが流れ込むというものだったが、ユーロの思わぬ復調が円高シナリオにも修正を迫っている。
ドルから円に流れ込んでいた多額の投資マネーがユーロに向かい始めれば、円の対ドル相場への影響は避けられない。3月上旬にかけて一時1ドル=146円台まで円高・ドル安が進んだものの、その後は再び150円台に一時反落するなど、円の上昇力にも陰りが見えつつある。日銀は依然として追加利上げを視野に入れており、円買い材料自体が消えることはないが、せいぜい極めて緩やかに円が買われる「脆弱な円高」にとどまる可能性が強まっている。