【ニューヨーク=竹内弘文】外国為替市場で米ドルの弱さが目立つ。円、ユーロなど主要通貨に対するドルの総合的な強さを示すドル指数は20日、1月以来の低水準を付けた。市場は米連邦準備理事会(FRB)が経済減速に伴い9月に利下げを始めると確実視する。より高金利の新興国通貨に資金を移す動きもドル安圧力になっている。

ドル指数(DXY)は20日、一時101.40近辺まで下げ、2024年1月2日に付けた101.34以来の低水準となった。20日のニューヨーク市場では、円相場が1ドル=145円台前半まで円高・ドル安が進行。21日の東京市場では1ドル=144円90銭台まで上昇する場面もあった。
円を調達して高金利通貨のドルなどを買う「円キャリー取引」が7月中旬から急速に巻き戻され、円の対ドルレートは5日に一時141円台半ばまで円高・ドル安が進んだ。その後8月中旬に149円台前半まで戻した後、再びドル安方向に相場が振れている。
ユーロ相場も20日に1ユーロ=1.1126ドルと23年末以来のユーロ高・ドル安水準を付ける場面があった。
円キャリー取引の巻き戻しは日銀の利上げ、ユーロ高は欧州の景気回復が追い風になっているほか、米国経済の失速懸念の影響が大きい。
2日発表の7月雇用統計は市場の予想よりも悪く、景気後退入りの不安がにわかに高まった。その後発表の指標が堅調で過度な警戒感はいくぶん和らいだが、米景気の減速という構図自体は変わっていない。
「米労働市場の崩壊ではなく冷却が米ドルの緩やかな下落をもたらしている」。ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルのチャーリー・マケリゴット氏は指摘する。
金利先物市場から米国の政策金利動向を予想する「フェドウオッチ」によると、9月利下げの織り込み確率は100%。25年7月末までに現状より計2%程度の利下げがなされるとのシナリオが金融市場では優勢だ。
利下げ観測に伴い米国債利回りは各年限で低下(債券価格は上昇)圧力がかかる。物価上昇率の落ち着き以上に利回りが低下したことで、米国の実質金利も低下した。
米BofAセキュリティーズによると、直近3カ月でみた実質金利の低下幅で、米国は他の先進国を上回った。実質金利のトレンド差で「外国人投資家にとって米ドルの魅力が落ちている」と同社の為替チームは分析した。
代わりに、より高い利回りが得られる新興国通貨へ資金を移す動きも活発だ。米シティグループの顧客であるヘッジファンドの為替売買動向は、金融市場の混乱がいったん収まった8日以来、新興国通貨の買い越しになっている。

特に政策金利10.5%のブラジルの通貨、レアルは人気で「前週の資金流入額は通常時の約3倍に膨らんだ」(シティのFXクオンツ投資家ソリューション担当のグローバル責任者、クリスチャン・カシコフ氏)という。8月上旬まで1年近く続いていたレアル安の傾向が反転した。
新興国通貨はボラティリティー(変動率)が高いため、先進国通貨に比べてリスクが高い。ドル売りと新興国通貨買いが併存し、形式上は「ドルキャリー取引」とも捉えられる。市場参加者のリスク許容度の回復を示唆する資金フローだ。
各種リスク資産の価格動向から市場参加者のリスク許容度を測る、シティのマクロリスク指数は8月前半こそ「リスク回避」に傾いたものの、16日時点で再び「リスク選好」へと復帰した。
米経済が減速しても後退には陥らない、という軟着陸(ソフトランディング)期待がリスク資産への資金シフトを促している。ただ、今後の米経済指標の動向次第では前提が揺らぐ可能性も残っている。